臨書の世界

古今寄りの名書を臨書する 

成都記 10 四姑娘山5

 

 

 

 

二時間ほど歩くと桟道が無くなる。
原始林に入る。
名前を忘れたがこの地方独特の樹だ。
5000m、6000m級の山々を背景に清流、赤や黄色の実をつけた樹木、吊橋も有る。
所々にヤクが顔を出す。

 


 

 



   

上高地を遡っている感じだが売店などは一切無い。
何人か大きなリックを背負った登山が目的らしい若者に行き逢うが、
登山口のような案内板も一切無い。

4時間ほど歩いて下甘海子と言うところに辿り着く。
同じツアーの青年が元気に下りて来た。
彼に尋ねると、
四姑娘山が眼前に広がるところまではあと一時間掛かるらしい。
もう足が言う事を利かなくなりかけている。
膝に持病も有る。
諦めて引き返す。

 

何度も何度も四姑娘山を振り返り見る。
二度と見ることは無いだろう。

 

結局、往復で約7時間歩いた。
この何年かの最高記録だ。
人間、やる気になれば出来るものだとつくづく思う。
といっても、険しさの無い丘歩きのようなものなのだが。
生暖かい酥油茶が馬鹿に美味しい。

観光資源としてはスイスのマッターホルンに近いだろうか。
何年か後にはロープウェイなど出来ているのではないだろうか。
観光開発と自然保護をどうバランスさせるか難しいところだ。

人に引かれて戻ってゆく馬に混じって、一匹二匹独りで戻る馬も居る。
馬が自分自身でトボトボ戻る姿を見て妙に感心する。



思い残す事は無い。
食事ごとに7,8人がテーブルを囲む。
人見知りする上に、私の中国語のレベルでは仲々会話の輪に入れない。
大きなカメラを抱え登山靴を履き如何にも四姑娘山が目的と言う人に混じって、
ネクタイに革靴姿の人も居る。
恐らく成都への出張か何かで来て、一寸、ツアーに参加したのだろう。

突然、中年の中国人の男が私に尋ねる、
「あんた、何処まで行ったの?」
「下甘海子」
「馬で行ったのか?」
「いや、歩いて」
と、彼は親指を突き出した。
「あんたは凄い、立派だ」
と言ってるようだ。

部屋に戻って飲み直す、
青裸酒で祝杯だ。