臨書の世界

古今寄りの名書を臨書する 

成都記 12

紀元前3世紀,戦国時代の秦代に創られた世界最古の灌漑施設、

有名な都江堤の付近を通る、行きも帰りも帰りも素通りだ。



バスが着いたのは城西汽車駅、
4、5日前に散々探したバスの発着所、
しかも、あの少年が案内したあたりの眼に前だ。
あれだけ付近の人に尋ねたのに、キツネにつまれたようだ。

宿に入り預けた荷物を受け取ろうとしたが、
散々待たされ、
「荷物が見付かりません」
との事だ。

とりあえず探してもらう事にして成都の中心街へ出る。
成都へ来たら必ず食べろというマーボ豆腐、

 

意外に高価だが味は期待したほどでもない。
スープが美味しいがこれも高価だ。
その理由は冬虫夏草が一片入っているからだそうだ。
最低でも一片10元近くするとの事、
四姑娘山の帰りに買った冬虫夏草のことを思い出した。
一片5角(0.5元)で買える筈が無らしい。
「ニセモノに違いない」
との事だ。
ニセモノかどうかの調べ方を教えて貰う。



写真の一番上が高級マーボ豆腐店のスープの中に入っていたもの。
二番目が四姑娘山の帰りに買ったもの。
これを暫くお湯に漬けると、
三番目の如く白く変色し、
更に漬けておくと茎の部分と実の部分が分離する。
お見事なニセモノだ。
しかし、手の込んだ事をするものだ。
小麦粉で作った偽者に冬虫夏草の茎に良く似た野草を繋ぎ、
幾日か天日干しするのだそうだ。

中国の四川、雲南、青海などのの三千から四千メートルの高山帯にしか無い珍薬、
万病に効くというお土産の夢が破れた。


ホテルに着くと、やはり、荷物が見付からないとのことだ。
受付の女は、無いものは無い、と言った顔で平然としている。
たいした物は入ってない筈の荷物なので荷物には未練は無いが女の態度にカチンと来た。

「マネージャーを呼んでくれ」
と言うと若い男が出てきた。
サブマネージャーだ。



「荷物は有りません。貴方はどのようにして欲しいですか」
と預かり書を広げた。
預ける時、中身を書き出すように言われたのを思い出した
朝、慌てて出たので中身の確認もせずいい加減に書いてある。
シャツ、セーター、下着、食料、ご丁寧に貴重品なし、と書いてある。

中に、
中日電子辞書、メモリ、三星堆でのお土産を入れたのを思い出した。
「保障させていただきます」
サブマネージャーの態度は真摯だ。
「何も要らない」
と喉まで出掛かった。
「ただ、預かり書に記入してない物は保障できません」
この一言にまたカチンと来た。

記入してある品物の日本円価格を中国元に換算する。
意外な高価に驚いているようだ。
結局、半額を保証してもらい、
お互いに、
荷物が見付かったら送り返す、その時、保障された金額を返金する、
で話がついた。
その後、中日電子辞書の無い旅の不便さを痛感。


帰りの汽車の同室は、
30がらみのスポーツマンタイプの好青年と60歳くらいの大柄な男性。
体格の良い肉の締まったスポーツマン、もしかしたらサッカーの選手、
とみた好青年は昆明医科大学の先生、それも哲学の教師と聞いて驚く。
インド哲学が専門とか、Oさんが居たらさぞかし話が合っただろうに.........
三星堆のお土産を大事に抱えている。
別れ際に名前と電話番号を書いたメモを呉れた。

もう一人の大柄の小父さん、1m90cmは有るだろうか、
兎も角良く食べる。
彼は東北人、ハルピンから昨日成都について、
今日は昆明へ移動、タフだ。
引退してから別の仕事を始めたとの事だ。
時々、ニコニコと話に加わる。

旅はドラマと言うがいろいろな事が起こるものだ。
その時は慌てふためくが、後で考えるといずれたいした事ではない。
いろんな人と出会い別れる。
二度と会わないだろうが思い出は残る。
その思い出も何時しか消えて行く。
旅は人生の縮図だ。