臨書の世界

古今寄りの名書を臨書する 

続麗江記22  麗江での大失態

翌朝、玉泉公園を一回りする。

生憎の曇り空で玉龍雪山も雲に覆われている。



東巴研究所を覗く、例の東巴文字の発信地だ。

 

初めて此処を訪れた時は胸の高鳴りを覚えたものだ。
特に見るべき物は無いのだが、東巴の匂いを嗅ぎ回った。
一時、東巴文字をモノにしてやろうと野心を持ったが熱も冷めた。

 

此処の売店で買物をした事がある。
後で、値段を聞いた邵が目を丸くしていたが頗る割高だ。
東巴に興味を持つ外国人は、
必ずと言ってよいくらいガイドの案内で此処に立ち寄る、
外国人相手の商売なのだ。

ぐるりと池を廻る。
昔、麗江を治めた木氏の別邸だったと言うから、
木氏の権力、財力がうかがえる。

 

 

改造中だった寺院が真新しくなっていたり、
所狭しと骨董品が転がっていた店も無くなったりで、
ここも大分変化がある。
麗江古城街を癒す湧水は健在だ。

帰りがけに銀行に立ち寄る。
麗江に来る度にお世話になっている銀行だ。
カードを手渡すと、係りの女性が笑顔を作る。
銀行の態度も来る度に変わって来た、
当初は、ポイッとお金を放り投げる、無愛想が当たり前だった。

「一寸、時間が掛かり過ぎるな」
と中を見遣ると二三人の係員が集まって何やら話している。
係りの女性が笑顔で何やら言って、カードが返させられた。
何事か判らない。
「もう、何回も此処で換金してます」
と説明しても首を横に振るばかりだ。
窓越しに係りの女性ともう一人の男性、上役だろうか、
二人して、懸命に説明してくれるが、とんと、理解出来ない。

近くの邵に応援を頼んで、銀行にとって返す。
暫く掛け合っていた邵が、
「駄目だそうだ」
「以前に、何回も此処で換金したよ、この間も昆明で換金したよ」」
もう一度、邵が掛け合う、係員が何処かへ電話しているようだ。
「口座に預金が無い、と言ってるよ」
そんな筈は無い、先だって株を処分したばかり、
インターネットで口座への振込みも確認している。
どうも、合点がいかない。

邵と別れてから、もう一軒の銀行に入る。
男性の係員がテキパキとパソコンのキーを打ち始めた。
どうやら、今度はうまくいきそうだ。
その内にその男性係員が首を左右に傾け出した。
「どうも、コンピューターの具合が悪いらしい。
すまないけど本店へ行ってくれないか」
と本店の地図を描いてくれた。

少し離れた本店へ向う。
途中で葬式の列に出会う、長い列がメイン通りをデモのようにつながる。



本店の係員は親切な女性だ。
しかし、なにやら問題が有るらしい。
彼方此方に電話しているようだ。
暫くして、
「原因が判りました、あなたのカードの期限が切れています」
空いた口が塞がらない。
カードをつくづく眺めると、有効期限3月31日とある。
昆明では有効期間内だったのだ。

「何か方法は有りませんか?」
暫く考えていた女性が上役の所へ行って戻ってきた。
「唯一の方法は、あなたの口座のある銀行から、
中国銀行の上海本店へ、あなたの口座に間違いなく預金があるとの
連絡していただき、その旨、上海本店からこちらへ連絡が有れば可能です。」

さて、エライ事になった。
日本の銀行の電話番号も判らないし、
手続きにどの位の時間が掛かるかも予想が付かない。

途方に暮れて、トボトボ歩き出した。
大きなバスターミナルの休憩室に座り込む。
今回は帰りの航空券も買ってない、明日はヤク平、夜は会食を約束してある。
頭の中で計算する、どうしても少し不足だ。
仕方ない、帰りはバス、宿をもっと安い所へ変えよう。

突然、肩を叩かれた。
ジェンウェイがにこやかに立っている。
「偶然ネー、どうしたの? 元気ないネ。 二日酔い?」
彼女はこれから客を案内して石鼓へ出掛けるところだそうだ。
事情を話すと、
「そんな事、心配ないよ、何とかなるよ、今はあんまり持ってないけど...」
とバッグを開こうとする。
「大丈夫、今は何とかなるよ」
「そう、じゃー帰ってからネ、私、お金持ちだから..
そうそう、丁度良かった、昨夜、明日ヤク平へ行こうと言ったけど、
今夜は向うへ泊まりになりそう、ヤク平は明後日ネ。
明日帰ったら電話しまーす」」
手を振ってゲートから出て行った。

渡りに舟とはこんなことを言うのだろう。

兎も角、助かった。