臨書の世界

古今寄りの名書を臨書する 

出羽三山記 (6) 湯田川温泉

「旨い蕎麦が食いたい」
と誰かが言い出した。
やっと尋ね当てた鶴岡郊外、羽前大山の蕎麦屋、寝覚屋半兵衛、
名前からして旨そうだが、実物もいける。



蕎麦と麦切りが半々ずつ、歯触りと喉越しの良さは半端ではない。
「蕎麦の香りがしない」
との苦情も出た。

羽前大山の酒蔵を訪ねる。
米どころとして名高い庄内平野、何代も続く酒蔵が多いのが頷ける。
どのような関係かは判らないが、代々の総理大臣の書が並んでいる。
それぞれの個性が字に浮かび上がっていて面白い。
大平正芳の字が一番気に入った。


Kさんがインターネットで調べた湯田川温泉甚内旅館に落ち着く。
湯田川温泉の甚内旅館を選んだ理由は、
ホームページに載っていた女将さんの笑顔だ。
もう一つは1300年前の開湯という古さだ。

期待に背かない笑顔が温かく迎え入れる。
ビールで喉を潤してから湯に浸かる。
湯量たっぷり、温度も手頃、透明極まりない綺麗な湯だ。

浴衣に着替え下駄を履いて街をぶらつく。
直ぐ近くの古めかしい由豆佐売神社、いかにも厳めしい名前だ。
大銀杏が古さを語る。


(Kさん撮影)

此処は「たそがれ清兵衛」のロケ地になった。
原作者の藤沢周平はこの近くの出身で、
甚内旅館が彼の定宿だったらしい。

宿に戻るとお膳が並んでいる。
昔風の一人一人のお膳に並べ切れないほどの料理、
と見ていると、次々に後が出て来る。
とても食べ切れない、一口ずつ箸を付ける。
どれもこれもが美味しい、心が篭っている。

やがて和服に着替えた女将が艶やかに登場、
「ご挨拶に...」
と膝をたたむ。



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(上下二枚 Tさん撮影)

湯田川の透ける湯浴びて夏料理
うすものの女将の白きうなじかな
食いたきは羽前湯田川夏料理

此処の料理は、全てが、ご主人と女将の手作りなのだ。
温泉の由来、効能、此処の名物料理、名産等を、
笑顔を絶やさず、おっとりと、お話して下さる。
この辺りでは梅と桜が同じ時期に咲くのだそうだ。
この辺りで採れる筍はあく抜きが要らない、
柔らかくて甘みが有って、一度食べたら忘れられないそうだ。
5月の中旬のほんの短期間、此処でしか食べられない絶品らしい。
後で知ったが、湯田川かっぽ酒、と言うのを飲みそこなった。

部屋に戻ってから、
湯殿山で頂いたお神酒「湯殿山」を囲んで、また、句会もどきが始まる。